私たちに馴染み深いツバメやスズメのヒナは、孵化した時は、羽毛はなく目も開かず自分で移動もできない。親鳥の1羽がヒナを保温し、別の親鳥が餌を運んでくる。2羽で、すなわち、一夫一妻で子育てをするのが、至極当然のように考えられ、目にするのも、2羽で子育てをする姿である。「伝統的に鳥類研究者たちは、一夫一妻を鳥類に一番適した配偶システムとして見てきたし…少なくとも見かけはそうである」(フランク・B・ギル:鳥類学 p359)。
ところが、”つがい”で営巣しているツバメやスズメのメスは、しばしば、つがいのオスとは別のオスと交尾(つがい外交尾)をすることが確認されている。
ギリシャ神話の美と愛の主神・アプロディーテー(英語名ではビーナス)が夫の弟と浮気をして、夫にその現場を押さえられる場面は、多くの名画として残されている。つがい外交尾を不義・不貞と語られることが多いが、その文脈で語るなら、ギリシャの女神も源氏物語の人々も、ツバメやスズメに負けてはいない。鳥に限らず野生の動物は、生か死の瀬戸際でより良い生存戦略を選び、その結果が習性として定着したものである。
つがい外交尾の結果として、巣には、つがいのオスとは血縁関係のない(つがい外父性の)卵・ヒナが生まれる。Griffith等が2002年に150種以上の野鳥の研究結果をまとめているが、つがい外父性のヒナを1羽以上含む巣は全体の18.7%、一夫一妻のオオジュリンでは、55%のヒナがつがい外父性のヒナで、86%の巣には1羽以上のつがい外父性のヒナがいたとのことである(江口和博編:鳥の行動生態学、p54、京都大学学術出版会、2016年3月)。
2015年2月に因島で見たオオジュリンについては、本連載【73】で既に紹介したが、写真①は2021年3月に因島で見たオオジュリン・メスである。

写真①オオジュリン・メス
オオジュリンはコジュリンとよく似ているが、そばにいたシジュウカラより大きいのでオオジュリンと同定できる。
写真②は、写真1と群れになっていた別のオオジュリンで、冬羽のオスと見られる。

写真②オオジュリン・オス
夏羽(繁殖羽)では、オスの頭部は黒くなる。因島で見たのは繁殖地に向かう群れであろう。因島での繁殖は未確認で、つがい外父性については、全くわからない。
大型の鳥・ツルや海鳥のアホウドリなどは、死別するまでは、生涯同一のパートナーで繁殖すると考えられている。猛禽(もうきん)類も同様に考えられていた。しかし、植田・平野(STRIX Vol.17,pp.173-176,1999)によると、本連載で紹介した猛禽類のミサゴ【47、88】、ハイタカ【119】、オオタカ【49】などで、つがい外交尾が確認されている。血液鑑定などの技術で、近年、つがい外父性の卵・ヒナの存在が確認されている種が増加している。一夫一妻と考えられていたのは、多くの場合、”見かけ”である可能性がある。
メスは、生き残りやすい子供を育てたいので、その可能性を高めるために、つがい外のオスとの子供も持つことにメリットがあり、オスは自分の子孫を多く残したいので、つがい外交尾は生存戦略として理にかなっている。ところが、つがいで育てている巣のヒナには、当然の結果、つがい外父性のヒナがいる可能性がある。
もちろん、種内托卵で、オス・メスいずれにも血縁関係のないヒナもいる。スズメの観察では、つがい外父性のヒナや種内托卵のヒナの割合によって、オス、メスが餌を運ぶ頻度が異なっている可能性がある(北海道大学高木らPRESS RELEASE 2023/2/14)。なかなか難しい問題でもある。
自然界は多様で、「ヒト」も自然の一部であり、ヒトのありようも多様である。
写真・文 松浦興一
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