島本陣跡(上島町岩城)
島本陣跡の岩城郷土館に寄ったのは、ついでであったが、ここに書くのはついでではない。
書くべき理由がある。ここは岩城の名望家三浦氏の旧宅であるが、三浦家の初めの二代は因島村上氏と姻戚関係がある。
また重井(現因島重井町)の庄屋長右衛門家と姻戚関係のある岩城の庄屋白石家と、ここ三浦家とは深い関係があった。そして、白石家の後に庄屋も勤めている。
さて、この岩城郷土館は無人で、ご自由にご覧くださいと書いてあった。ただし、猫が入るので入口を閉めておくようにとも。猫とゆっくりとご覧したかったが、帰るときになって猫と追っかけっこはしたくないので、入口は閉めておいた。
藩主の部屋と呼ばれた客間などの部屋や、調度をゆっくり眺めていると時間の経つのを忘れる。


また、ここは歌人若山牧水や吉井勇が泊まったところでもある。
窓前の瀬戸はいつしか瀬となりぬ 白き浪立ちほととぎす啼く 牧水
牧水がむかしの酒のにほひして 岩城の夜は寂しかりけり 勇
以上二首は当地での作。
牧水が三浦邸に泊まったのは28歳の5月18日から5日間。
わが廿八歳(にじゅうはち)のさびしき五月の終わるころ よべもこよひも崎は地震(ない)する
歌集にある牧水のこの歌は、この地でのものか、あるいは既に他地へ移っているのか。
(写真・文 柏原林造)